「映画死闘」では、大事なことは格闘技と映画から学んできたミカミが、主に格闘技視点で映画をレビューします。
蹴って、殴って、映画観て、人生で直面するあらゆることを探求しよう!
ある意味究極のアクション映画「ジョン・ウィック」
皆さんは映画『ジョン・ウィック』シリーズをご存じでしょうか?
そう、『ジョン・ウィック』シリーズとは、キアヌ・リーヴス演じるジョン・ウィックが、銃器やナイフなどの武器や柔道・柔術・空手などの武道を駆使して、ひたすら、とにかくひたすら戦い、目の前の人間を殺め続ける(だけ?)という映画です。
『スピード』で一躍脚光を浴び、『マトリックス』シリーズで主演を務めてからはさらに、本格的アクション俳優として活動を続けてきたキアヌ・リーヴス。その彼の集大成ともいえるアクション映画シリーズ。それが『ジョン・ウィック』なのであります。
リアリティ溢れるアクションや暴力表現とは裏腹に、世界観はレトロフューチャー的ともサイバーパンク的ともいえる独特の雰囲気というのがこの映画の魅力なのですが、シリーズを重ねるごとに加速度的に世界観から現実味が失われていき、やがて純度の高い暴力だけが残されます…。
シリーズ4作目にもなると、主人公であるジョン・ウィック自身ですら「とりあえず殺しといたらええんやろ?」みたいな感じで、自分の置かれてる状況がよくわかっていない様子です。
いくらなんでもこんな奴が一流の殺し屋なのか?と首をかしげたくなりますが、「殺し屋というのは殺しの依頼を遂行すれば十分なのだから政治的な駆け引きや細かい事情など知らんし知りたくもないやい」という美学だとすれば、逆に、これこそ一流の流儀かもしれないとも思います。
根が真面目な私なんかは、こんなやたらめったに人殺しまくってええんやろうか…と、ふと心配になってくるのですが、そんなことをぼんやり思っているあいだにも次々と殺しが展開されていくので、ろくに気合の入っていないフワフワした心配事は頭の中からどこか遠くへ蹴り飛ばされて消えていってしまうのであります。
なお、この『ジョン・ウィック』シリーズは、恐らく4作目で一旦完結したことになると思うのですが、同じ世界観を共有したスピンオフが2作品も制作されることがすでに決定しています。
そんな楽しい(あ、言ってしまった)この映画ですが、武道・格闘技を学んでいる人ならきっと感じるに違いないことがあります。
それは、「この映画を作ったやつらは絶対にやっているな」ということです。「やっている」とは、変な薬とかじゃなくて、武道をやっているということです。
”ジョン・ウィックを創った”二人の監督
この作品はチャド・スタエルスキとデヴィッド・リーチの共同監督によって制作されたのですが、この二人の監督について、少し掘り下げていきたいと思います。
まず、二人とも2014年の『ジョン・ウィック』が初監督となります。彼ら二人の映画監督としてのデビューについては、キアヌ・リーヴスの存在が大きく、キアヌ本人が『ジョン・ウィック』の脚本を用意したうえで、旧知の仲であった二人に監督を直接依頼したらしいです。
1人目:チャド・スタエルスキ
さて、チャド・スタエルスキ氏ですが、『ジョン・ウィック』シリーズの全作品で監督を務めています。
スタントマン出身であるスタエルスキは、幼少期から様々な武道を学び、日本の講道館で柔道を学んでいたこともあるそうです。そういえば、シリーズの1作目と2作目では、特に多くの柔道技が使われていた記憶があります。
なんと驚くなかれ、日本の総合格闘技団体である「修斗」に出場し、山田学選手と対戦したこともあります(試合結果は1R膝十字固めで1本負け)
2人目:デヴィッド・リーチ
次に、もう一人のデヴィッド・リーチ監督も、スタエルスキと同じくスタントマン出身です。
ジョン・ウィックの1作目で監督デビューした後、『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』『ブレット・トレイン』と、アクションを全面に押し出した超話題作を次々に手がけて成功させており、現在のエンターテインメントシーンになくてはならない人物となりました。
そんなデヴィッド・リーチ監督の新作『フォールガイ』は、なんとスタントマンが主人公。スタントマン出身の監督にとって分身のようなキャラクターなのであります。
この『フォールガイ』は、アメリカでは2024年5月に公開され高い評価と興行成績を収めているようです。スタントやアクション映画に対するリーチ監督の熱い想いが投影された力の入った作品になるでしょうし、映画『グレイマン』で最高にカッコイイエージェントを演じたライアン・ゴズリングが主演ということにも期待が高まります。
日本では8月16日から劇場公開中です!
私はもちのろんで映画館で見ます!オラ、ワクワクすっぞ!
「87イレブン」道場
そして、彼ら、スタエルスキとリーチの作品を成立させるために非常に重要な存在が、二人が自ら設立した「87イレブン」道場です!
映画のアクションシーンを支えるスタントマンを要請するために、2006年に設立された「87イレブン」道場。
ここはスタントマンの養成・俳優のトレーニング・殺陣の振り付けなどなど、映画撮影のために必要なアクション要素を一手に引き受けるための”道場”であり、この道場の売りは実際の武道・格闘技の動きを活かしたリアリティのあるアクションなのです。
87イレブンのサイトを覗くと、関わった映画として、これまでに挙げた映画の他に、『ハンガーゲーム』シリーズ、『エクスペンタブルズ』シリーズなど、豪華なタイトルが並んでいます。
ざっと見たところ、キアヌ・リーブス、ジェイソン・ステイサム、ジェレミー・レナーの映画が多いような・・・
ところで、87イレブン以前のハリウッドでは、映画ごとにフリーランスのスタントマンを集めて撮影するのが主流でした。
スタエルスキたちは、ジャッキー・チェンのような香港映画のアクションスターたちが自分専属のスタントマンのチームを持っているのにインスパイアされて、所属のスタントマンたちがチームで活動する87イレブンを設立したとのことです。
この香港スタイルだと、撮影がない期間もチームで練習して技術を磨けるし、87イレブンとして振り付けも含めたアクションシーン全体を引き受けることができ、撮影に入る前にアクションを練り上げて徹底的に訓練するため、圧倒的に撮影期間を短かくできるそうです。
撮影期間が長くなるほど当然に費用もかかるため、リアルで難度の高いアクションを提供しつつ撮影期間も短くできることは、まさに唯一無二の強みになっているのだと思います。
武道・格闘技は、海外では総じてマーシャルアーツと呼ばれることが多いのですが、映画という現代の総合芸術でマーシャルアーツを表現している彼らの取り組みには今後も期待せざるをえませんね!
今回は、アクション映画の新しい可能性を示した『ジョン・ウィック』シリーズにはこんな裏側があるのだということを紹介しました。
もはやストーリーも果てたその先で、終わりのないアクションに時間も忘れひたすら没頭する映画「ジョン・ウィック」ですが、その恍惚のアクションは、物事を成し遂げるにはビジョンや哲学、それを実現するための体制作りによって緻密に支えられているんですね。
ジョン・ウィックシリーズは必ず犬が出てくる、ワンワンアクション映画でもあります。
1作目:ビーグル
2作目:ピットブル
3作目:ベルジアン・シェパード・マリノア(2匹)
4作目:ベルジアン・シェパード・マリノア
シェパードは、よう闘いますね。